サイン屋稼業奮戦記

 Vol.120
信頼される業者、業界であるために
    関西支部 サインテック( 石川哲朗

石川哲朗さん   弊社は先代(現会長 石川博美)が大阪府豊中市で創業したサイン製作・施工会社です。1966年の創業ですので来年50周年を迎えます。これもひとえにお客様、そして業界関係者の皆様のご指導ご鞭撻の賜物であると感じ、大変感謝しております。
  さて、そんな『父の会社』に私が入社したのはほんの10年前。前職は財閥系商社の金属部門の営業職でした。実は就職活動の際に父から「一代でやめるつもりだから家の仕事を継ぐことは考えないように」と言われていたので、バブル崩壊後の就職氷河期でしたが、なんの相談もすることなく自身の思うまま就職活動をしました。ただひとつ、いつだったか父が「商社にでも勤めてくれたらなぁ」と、つぶやいていたのが妙に心に残っていて、それを意識したのは確かです。
  前職では金属を中心とした素材から加工品までを扱う部門で、建材・電気・自動車・航空・医療等あらゆる分野の仕事をしました。お客様は名の知れた大企業ばかりでしたが、仕入外注先は中小零細企業が多く、それらの社長さんたちから技術的なことや経営哲学みたいなものも多く学ばせていただきました。
  前職の話が長くなりましたが、そんな私にある日『帰還命令』が下りました。私は既に30代半ば。前職の仕事もある程度の基盤と自信がついて、サラリーマンとして東京でバリバリ仕事をしていましたので正直かなり悩みました。でも、最終的には経営者になれるチャンスを活かそうと転職を決意しました。
  幼少の頃から父の仕事を見てきたことや、前職で多くの中小零細の社長さんと関わりを持っていたことで、多少なりとも経営者の気概が芽生えていたのかもしれません。
  サインテックに入社してしばらくは現場見習いや既存顧客の営業の傍ら、業界や部材のことをいろいろ勉強したりして、少しでも『遅れ』を取り戻そうと悪戦苦闘していました。
  マニュアルのない仕事を覚えるのはやはり経験しかないのか…と感じたことも数多くあり、正直「本当に転職してよかったのか」と悩んだこともありました。
  入社して1年あまり過ぎたころ、某社ネオン広告塔改修の担当をすることになりました。既存の外装をすべて撤去し、下地鉄骨からベース面、箱文字、ネオン管、トランスすべてを刷新するもので、企画・設計から取り組んで様々なプランを提案しました。
  最終的に決まったのは建材用のアルミルーバー材をベース面として取り付けたうえで、その合間にネオン管を配置することによりボーダー面を間接照明のように見せるものでした。各面にはネオン管の入った面発光仕様の箱文字も配置されました。
約1カ月の工期中は現場管理や部材・作業員の段取りなどなかなか大変でしたが、基本的な図面解読やルーバー材の選定・手配などは前職の経験と人脈を活かすことができ、これが少なからずとも自信となりました。
  その後は前職の人脈を活用したり、まったくの飛び込み営業のような活動も積極的に行なうことにより新規顧客の開拓もなんとかできるようになりました。また、大手ゼネコンや設計監理会社との仕事においては、現場管理・安全衛生管理、仕様や部材の選定、関連する作業との調整など多くのことを学ばせていただきました。
そしてなによりも多くを学ばせていただいたのが協力業者の方々や同業の先輩諸兄です。
  特に現場施工については長年の経験に裏打ちされた、良き伝統や独自のノウハウが存在し、今も引き続き勉強させていただいております。しかしながら、近年業界を取り巻く環境は大きく変わったように思います。
  私がこの業界に飛び込んでからの10年間は、IT技術の進歩やLEDの汎用性が大幅に向上したことにより、製作データ等のスピードや精度が格段に向上したり、蛍光灯やネオンが矢継ぎ早にLED化されるなど業界環境は明らかに変わりました。これに加えて近年は景観への配慮や環境問題、コンプライアンス、そして安全対策など多くの課題を抱えるに至りました。
  このような環境の変化により従来の手法や常識が通用しなくなるような事例も数多く起こっているのではないかと思います。
  良き伝統とノウハウは守りつつも世の中の流れにマッチした手法を模索し、人材、会社組織、そして業界全体も革新していかなければならないと考えています。
  私はこの業界を客観的にみて、仕事の難易度、守備範囲の広さ、現場環境、そして社会的責任など、どれを取っても他の業界を凌ぐ高いレベルにあると感じています。なのに、業界の社会的地位はまだまだ低いレベルにあると思います。
「サイン業」が確立されて誰もがその仕事の価値を認めるようになれば、おのずと業界の地位は向上すると思いますが、そのためにはまず厚い信頼を得る必要があります。
  信頼されるには何が必要か?を考えた時にまず思い浮かぶのが「真面目」という言葉です。死語のような言葉ですが、これからの世の中ではとても重要なことのように思います。
  生意気なことを言っていますが私自身はまだまだ駆け出しに近く、今でも修行中のような立場に変わりありません。そのうえで、私ができることは、会社のため、業界のために小さなことからコツコツと、ちょっと背伸びしてできることを真面目に着実にやっていくことだけです。
真面目に奢らず謙虚に、そして熱く!
  これまで築き上げてきた信頼を損ねることのないよう精進してまいりますので、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。



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