サインとデザインのムダ話

 
もしも、サインデザイナーと旅をしたら
金田享子
アトリエ景株式会社 代表取締役
公益社団法人 日本サインデザイン協会常任理事
公益社団法人 日本グラフィックデザイナー協会正会員
静岡県景観賞審査特別委員
金田享子さん

 世の中に「サインデザイナー」を自称・他称する人がどれほどいて、どのように生きているか、統計的な調査を得られないので、その数や生態は不明である。かくいう私もその端くれとして、既に30年以上サインデザインに関わっているが、我ながらよくもまあ飽きること無く仕事をしていることよ、と心の内でつぶやく日も少なからず。なぜ飽きないのか、と考えてみると、どうもその要因のひとつには、仕事といいつつ、あちらこちらに行けるということがあるからではないか、と思い当たる。
 そこで、サインデザイナーは旅先(出張先)でどんな楽しみ方をしているのか、あなたの旅の道連れがサインデザイナーだと仮定すると、どういうことが起きるかを解説してみたい。

その1 公共交通機関に乗りたがる
 もしあなたが、30分歩くならタクシーに乗りたいと思っても諦めた方がいい。多くのサインデザイナーは、公共交通機関である鉄道、地下鉄やバス、むろん飛行機、チャンスがあれば船に乗るのが好きなのだ。そして、乗ることと同じくらい、乗り場施設に相当な執着を見せる場合もあることも理解してあげて欲しい。従って、ぎりぎりに駅や空港に着いて、すぐ乗るというような旅程は避けた方が良い。

その2 立ち止まらずにはいられない
 風情のある町並みや、おしゃれなウインドウを覗きながらのそぞろ歩きは旅の醍醐味のひとつである。が、一緒に歩いているつもりがふと気が付くとサインデザイナーの同行者は、はるか後方にいるということが起こりがちである。おそらくそこには、あなたが気にも留めなかった「何か」が存在している。
 例えば、今年1月、日本サインデザイン協会(SDA)メンバー8人で静岡県を横断する視察ツアーを開催。「ガーデンシティみしま」として花と緑による景観づくりと、地元高校生らのデザインによる飾り袖看板のある駅前商店街を視察中でのこと。三島市役所の方々の先導で、通りを歩き始めてほんの数分後、先頭で担当者とお話をしつつ振り返ると、メンバーがあっという間にばらけて、最後尾はおよそ20メートル後方になっている。みなそれぞれに、袖看板、無電柱化による地上機器盤に取り付けられた植栽プランターなどに熱い視線を送り、口々に感想を述べつつ写真撮影をしていた。このようにサインデザイナーはいきなり立ち止まったり路地に入り込んだりもする。
 従って同行者のあなたは、見失わないよう、それとなく注意を払いながら寛容に待っていてあげて欲しい。待ちきれない場合は、集合場所と時間を決めて、野放しにすることをお勧めする。

その3 触りたがりである
 サインデザイナーである同行者は、気になる対象に、可能な限り近づこうとする。そして、触れたり、なでたり、叩いたり。
 今年6月、SDA海外交流ツアーでの出来事を紹介したい。その日は参加メンバー最若手であるI君の先導で、シドニー市内を散策。交差点に設置された市街地案内の公共サインに気付いたメンバー数名は、本来そのサインに表示された内容を見て道を選ぶという利用方法はそっちのけで、観察がいきなり始まった。この素材は何? どうやって造ってるの? 納まりはこうだよね、メンテナンスはどうする、云々かんぬん、触ってみたりなぞってみたり。渡るはずの交差点で、何度青信号をやり過ごしたことか。相当怪しいアジア系外国人集団に見えたことに違いない。
 同行者のあなたは、こういった街角での行動に他人の振りをしてもいいが、時にはキケンな目に遭わないよう忠告してあげて欲しい。

 このように、サインデザイナーと旅をすると、フツーの観光旅行では味わえない視点を共有できる(かもしれない)。サインデザイナーは日常から解放される「旅」にあっても、新しい何か、素敵なアイディア、琴線に触れる美しさをいつも気にしている。それは、サインとしてデザインするモノそのものが、場所や施設ごとにオリジナリティのある一点物に近く、たとえ考え方や仕組みが似ていても、その都度もっといいモノを、次はもっと優れたモノができるのではないか、と諦めない気持ちが根底にあるからだ。もしも、サインデザイナーと旅をする機会があったなら、どうか飽くなき探究心に免じて温かく見守って欲しい。


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