ネオンストーリー

 
「ネオンと絵の具箱」
著者:大竹伸朗 ちくま文庫


 道を挟んだ石碑前には現在「カラオケランド ジャングル」という名のカラオケボックスが建ち、夕闇迫る頃そのカラオケボックスにはライトブルー、レモンイエロー、ペイルグリーン、ピンクといったネオンサインが灯る。「ジャングル感」強調効果か壁面にはサバンナ背景の象やキリンの写真の大きなカラーインクジェット出力画像がかかっていて、駐車場を兼ねた入口にはなぜかアメリカ合衆国の星条旗とイタリア国旗が並んでたなびき稀に通り過ぎる外国人バックパッカーにユルい疑問符をノタリノタリ二十四時間体制で投げかけている。おそらく若いバックパッカーはそんな光景の底にポテッと転がる確固たる豆腐のような「日本」には一生気づかないのだろう。

 時々そんな国際色豊かな「ジャングル豆腐」通りを帰路につくことがある。宇和島に仕事場を移して数年経った頃だったろうか、ある雨の晩たまたまその道を通り、濡れて立つ「高野長英」の石碑前にさしかかったことがある。傘に当たる至近距離の雨音の向こうに若者がシャウトするJポップが闇に聞こえ、「ジャングル」壁面のアニマルを右手に、ちらり左手に目をやると濡れた石碑の表面に色が躍っていた。そこには色とりどりのネオン光の粒が進行形の時間の中にヌラヌラと流れ落ち、僕は傘をさしたまま立ち止まってしばらく初めて石碑というものを眺めた。

 
 

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