インタビュー

武山良三氏
街づくりの視点を持ち、街の情報拠点に
武山良三氏氏
国立高岡短期大学産業工芸学科助教授 産業デザイン専攻研究室

──ご専門は産業デザインですね

 教職について5年目なんです。その前は自分のデザイン事務所で南海電車のサイン計画なんかをやってました。それまではサインデザインというと鉛筆で手書きだった。
あまりに原始的で「なんとかせな」と思って89年にマッキントッシュを入れたんです。モリサワが日本語の書体をつくった頃、ちょうど難波駅の地図をデザインしたりと、マックの進歩とうまくタイミングがあった。お陰で最初の2、3年は寝ても覚めてもマックでしたね。
ソフトも市販されてるのは全部入れて、メーカーの方とも随分仲良くなりました。南海の路線図は内容的にも他社の路線も入れたものとして評価いただきました。「おばあちゃんが孫に会いに行く」というコンセプトで、乗り換えを含めた案内図を作成したんです。
はじめは「何で他社線を入れるんだ」と怒られましたけど、「お客さんが本当に便利なように」とねばり強く説得して実現させました。デザイン的にかっこいいというより、中味が本当に充実してる方がよっぽど意味があるでしょう。

──屋外広告についてアドバイスをいただけますか

 今は「屋外広告」イコール「景観問題」になってしまっているんです。だけど屋外広告は本来は「経済問題」なんです。新聞広告のデザインをするときに他社の広告のことなんか考えないでしょ。屋外広告は周りの事ばかり気にする。(せざるをえない)クライアントとユーザを結び付けるデーターもない。その点、アメリカではちゃんとデーターをとって、説得性があるんです。こうだから、売上がこういうふうにアップするといった。
 今、某理美容室チェーンが、ものすごい電飾付けてる。古い町並みが残ってる地域でもお構いなしです。これなんかは、目立つこと=儲かる=自分にとっては正しいことという理論になる。でも、美容院ってきれいになるために行くお店でしょ、おしゃれして似合う街をつくってほしいと思いますよね。例えば電飾より工芸的なしゃれた看板を付けたら店が繁盛した。というデータがあればいい。そんなことをデザイン、施工をする側が本当に考えていかなければならない時期に来てるんです。

──デザインや施工する側がイニシアチブをとるということですか?

 マクドナルドの看板を10年ぐらい撮っているんですが、軽井沢のマックの看板は真っ白で、テラス形式、ロスアンジェルスにはブルー地とグリーン地のマックがある。マクドナルドは京都の景観問題が発端でしょうが、発想を転換していますよ。川越のサンクスには木彫りの看板、小施には暖簾が下がった銀行がある。クライアントにとっては宣伝手段はなんでもいいんですね、インターネットでもサインでも、効果があれば。
 企業は以前は10年単位で物事を考えていたのが、今はせいぜい3年単位。そういうところも、ネオンサインが今人気がない理由なのでは。ネオンは企業のロゴマークなどには強いですが、商品広告には弱いですよね。他のメディアとの組み合わせを考えてもいいんじゃないでしょうか。広告主が発想できない事を提案することで、つくる側が主導的な仕事ができるようになるんです。そのためにはまず教育。ネオンサインについてトータルで専門に教えるところが必要ですね。
 クライアントを充分に分析して、最適なメディアを選んで提案していく力がなければ生き残れないと思います。今一番求められているのはマーケティング力でしょう。

──ネオンサインの可能性について

 地方では郊外店が目立ちますが、郊外店でいいデザインと思うネオンを見たことがないんです。たいていフレックスや簡単な看板ですよね。郊外店に対してどのような戦略をとるか、例えば建物の形に沿ってネオンでシェーピングする、場合によっては他の光源も使う。郊外店は夜真っ暗になりますから、ネオンによって建物の大きさも浮き立たせることは大きな効果を生みます。シェーピングは天王寺のルナパークで初めて使われた古典的な手法ですが、もっと使えばいいと思いますよ。
 ネオンは識者といわれる人たちには人気がない。市民はというと、好きと嫌いと半々。でも多くの人がネオンに華やかさや都会らしさを感じてますよね。地方から上京すると特にそう感じちゃいます。
 屋外広告はパブリックな意味合いをもつ。デザインを100点満点で表すと、クライアントとデザイナーが100%満足しても、66点にしかならない。あとの33点はユーザーの満足を如何に獲得するかにかかってます。残りの1点はそのときの運かな?


──クライアントにはユーザーが強い。そのユーザーの独自のデーターを持つということでしょうか。

 ネオン協会は全国組織ですよね、そのシステムを活用して、社会活動に取り組むべきです。例えば駅前のサイン事情や駅前のバリアフリー度など、なんらかの社会活動というか市民活動に積極的に取り組むべきです。クライアントとユーザーとデザイン・製作者のトライアングルの関係性のなかで、ユーザーにネオンを受け入れやすい環境をつくることが大切だと思います。


──街づくりの視点が必要ということですね。

 そうです。ネオンのことだけを考えるのではなく、まち全体の活性化に取り組むことが、結局は商売繁盛に繋がるんです。ネオンや屋外広告関係の方は、実際にまちとの関わりも深いでしょう。ならばいっそまちの情報拠点になっていただきたいですね。
 今、大学のある高岡の街づくりにどっぷりと、首までつかっています。路面電車があるんですが、赤字路線で存続の危機にあるわけです。そこで、住民参加で「らくだキャラバン」と称して、液晶プロジェクターもって、1年間で30カ所まわったんです。金銭面では空港と比べてどうだとか、乗降客の声や具体的な数字も集めて紹介すると、皆さんビックリ、考え方が180度変わる方もおられます。
 まず、情報収集をして、自分の目で確かめる。なにか話題になったところへは視察団が行くわけですが、ただ見るだけではなく、この時なんらかのアクションを行う。本気で買おうと思って見るんです。100円でも買って、食べる、これが原点。そうすると店の人ともコミュニケーションが生まれて、お互いに行き来するような関係ができたりする。お店の人達の気持ちを肌で体験することからデザインは始まるんです。

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