ネオンストーリー

 
活字メディアより
  成田憲彦著  「官邸」  発行:講談社 
 

ケイコとは六時半に銀座の三越前で会うことにした。それまでに「作成せず」の答弁を書き上げ、渋滞を見越して早めに官邸を出たが、道が思ったほど混んでいなかったので、予定より早く着いた。
 秘書官バッジを外してショーウインドウの前で待っていると、休日ながら夕暮れ時の人の流れは多かった。天気は生憎の曇り空で、辺りはすでに暗く、少し肌寒いほどだった。それでも久々の銀座だった。以前にも増して美しく、整然とした街並みに、赤や青のネオンが鮮やかさを増しつつあった。バブルの崩壊後とはいえ、人々の服装にもこの国が豊かな国であることが感じられた。華やいだ街並みに溶け込んでケイコを待つことで、風見の心は自然に弾んでいた。
 と風見は、不意に釘付けになった。少し離れた先を通り過ぎて行った母娘連れは、由希子と由加梨ではないのか。ショート・ヘアーに緑色のワンピース、中背でふくよかだが、すらりと足の長い後ろ姿は、由希子のはずだった。肩から掛けたシャネルのバグは、パリで風見が買ってやったもののような気がした。そして並んで歩いていく中学生風の女の子はどう見ても由加梨だった。風見は胸が高鳴った。銀座は確かに由希子のお気に入りの街だった。

 
 

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