ネオンストーリー

 
  「ぼくのマンガ人生」  
手塚治虫著 発行:岩波新書

 大阪に着きました。阪急電車の駅も焼け落ちて鉄骨だけになっています。そこから阪急百貨店の下のホールに出ると、なんと阪急百貨店のホールにシャンデリアの明かりがパーッとついているのです。
 それまでは灯火管制といって、夜になると電灯を消さなければいけなかったのです。
電灯を消さないまでも、まず黒いカーテンで窓をおおって、電灯にも黒いシェードをつけて、そのシェードから漏れるわずかな光で本を読んだりしていたのです。そうしないと外から敵機に見つかってしまうので、灯火管制は常識だったのです。数年間はそれで過ごしていました。 --中略--
 八月十五日の夜、阪急百貨店のシャンデリアがパーッとついている。外に出てみると、一面の焼け野原なのに、どこに電球が残っていたかと思えるほど、こうこうと街灯がつき、ネオンまでついているのです。それを見てぼくは立ち往生してしまいました。
 「ああ、生きていてよかった」と、そのときはじめて思いました。ひじょうにひもじかったり、空襲などで何回か「ああ、もうだめだ」と思ったことがありました。しかし、八月十五日の大阪の町を見て、あと数十年は生きられるという実感がわいてきたのです。ほんとうにうれしかった。ぼくのそれまでの人生の中で最高の体験でした。

 
 

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