ネオンストーリー

 
  「電光の男」 その2
加藤 文著 文藝春秋 刊

「島さん、でっかい地球に腰掛けて、宇宙を肴に一杯やらないか」
 皆川は日劇の影になっているアカボシビルを指さした。
 トリスの小瓶をポケットに入れて、ふたりはアカボシビルの屋上に上がった。
 錆止め塗料がぶんぶん臭う惑星型ネオンサイン「地球」によじのぼり、作業用の梁に腰掛け銀座を見下ろす。
 晴れた日の星空のように、空中にネオンサインが煌々と灯っている。まるで、星座だ。光のシンフォニー計画が完了した暁には、惑星型ネオンサインが九つ揃う。本社ビルは、太陽の外装を纏う。寛太は模型でつくった光広告社案を、眼下の景色に重ね合わせた。
 皆川は日比谷を照らす電気のお花畑と銀座の空中に拡がる銀河を見比べている。厳しい目つきの奥に、安らぎの色が浮かび上がる。
 寛太はトリスの封を切り、キャップでウイスキーを飲んだ。アルコールの熱気が喉を駈け降りる。体の芯に、かがり火が灯る。しばらく忘れていた、若々しい気持ちがよみがえる。
 寛太はキャップを振って滴を切った。アルコールの飛沫が、風に流され日比谷の夜空に散った。
「僕らは、勝利したんだ」皆川も小瓶のキャップでウイスキーを飲んだ。「僕らがいなければ、銀座は闇に包まれたままだったに違いない」


阿久悠氏、絶賛!
「逆境を好機に変える天才!とは、ぼくが広告代理店の社員時代におぼえた言葉である。飢餓を憧憬に変える達人といってもいい。
 その頃、寄り集まる誰もが、有名無名にかかわらず天才と達人に見えて、ときめいたものだ。『電光の男』を読むうちにぼくの脳裏には、ある人の姿がうかぶ。銀座の夜を変えた男という尊称はぼくの会社員時代に既にあって、たしかにある時代を証明した人であった。
 ぼくの追憶はそこでやみ、追憶から離れたロマンを追う。」

 
 

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