点滅希

 
 煙草  
    

 二カ月も咳がとりついて困った。頭痛もないし、熱もない。近所の医者にかかったら薬を山のようにくれた。飲んでも飲んでも咳はとまらない。まあ、仕事はちゃんとできるので放っておいた。
 「あなたねえ、煙草を一週間やめないか。薬飲まんでも直るかも」、医者にも女房にも息子達にも言われる。孫まで。癪だからヨシ、と意気込んでみるが一日坊主。そんなある日息子が(中南海)という中国製の煙草をくれた。薬草煙草、咳を鎮め痰を切ると書いてある。少し辛いが効きそうだ。鰯の頭も信心から、といおうかその日から治ってしまった。中南海の他に(ネオシーダー)というものがある。ネオシーダーにはニコチンが含まれていない。どっちが効いたかは定かではないが医者の薬より良く効いた。禁煙のチャンスを逃した大馬鹿ものの弁である。
 「北原白秋は一日十箱も吸っていた。その青い煙を見ながら詩を書いたそうだ。そして当時の平均寿命まで生きた。俺も……」と嘘ぶく。
 今、世界をあげて禁煙が叫ばれているのに、でも元気。

(忠)

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