講演より

武山良三氏
関東ネオン業協同組合秋季経営セミナー(H16.10.26)より
屋外広告の今後と我々の進むべき道(T)
武山良三氏
昭和31年生まれ、昭和55年に京都芸術大学美術学部卒業。(株)ストロイエ・デザイン事務所設立、現在、国立高岡短期大学の産業デザイン学科教授。SDAサインデザイン協会常任理事、富山県景観審議会景観賞選定部会の委員、高岡市屋外広告物適正化検討委員会委員。日本サインデザイン協会、日本サイン学会、日本色彩学会、富山デザイン協会、英国デザイン協会等会員。

自分たちでなんとかする

 皆さんこんにちは。今日は、活性化というテーマでお話したいと思います。
 私は富山県の高岡という地方都市に行き、いろんな現実に突き当たりました。東京の大都市圏で進むべき方策と地方とはまったく違うんじゃないかなという気もしております。地方の場合は中心市街地の活性化や、地場産業ですね。高岡には銅器、漆器、アルミ産業があるんですが、そういったところの活性化にも加わってると、どうも共通項があるんです。
 高岡には路面電車の万葉線というのが廃線に追い込まれて、なんとか残そうと、市民運動等で残すことができました。それで動いたことも、商店街や地場産業の活性化とか、そういったものと非常に共通項があると。今日もそういうことをメインに話ができればと考えています。
 共通項というのは、結論から言ってしまうと、“自分たちでなんとかせにゃいかん”ということです。
 よくあるのが、補助金行政じゃないですがいろんなお金を取ってくる、あるいは東京から高名なデザイナーを呼んで開発をする。だけど、それっきりで終ってしまって。これの延々の繰り返しなわけです。考えてみたら、ネオンの業界で、私があれしなさい、これしなさいと言える事はあまりないんです。ネオンを勉強したわけでもありません。現場でネオンを扱っているのは皆さんです。ネオンのことを一番知ってるのは皆さん自身のはずですよね。ですから私が言うことはアドバイスとして何らかのきっかけになるとは思いますが、実際にやっていただくのはもちろん皆さん自身です。ですから皆さん自身、あるいは皆さんの会社がどうなるかというのが一番問題なのです。そこが本日の一番のポイントであります。

体験的学習と社会的学習
 会長のご挨拶の中にもあったんですが、活性化するということはこれから何か今までと違うものを作っていきたいということで企画や開発をするわけですね。いろんなキーワードの中に、クリエイティブというのも思いますが、メインはデザインだと思うんです。デザインというとすぐに感性と言われますが、感覚的なものの象徴と言うようなことで取り上げられて、「我々は感性がないからデザインも開発もできませんよ」とよく言われます。これは全然違うと思っています。私はデザインは何かというと、『知識と技術と実行力』であると考えてます。例えばここで、感性でよくいわれる色についてちょっと皆さんにご質問したいと思います。色のセンスが悪いと思う方挙手お願いします。結構少ないですね、皆さんいいと思っているんですね。(笑)じゃあ、一番前のダンディーな方からいきましょうか。赤い色の色名、あるいは赤を連想するもの、なんか言ってみてください。「救急車」。後ろの方は「イチゴ」、「信号機」、「りんご」。「マゼンダ」なかなか通ですね、前の方どうですか、「太陽」、「信号機」、「フェラーリ」、車好きなんですね、今話題の堀江さんはシルバーのフェラーリだそうですけどね(笑)。信号機という方多かったですが、いろんなことをイメージされると思うんです。
 高岡で聞きますとね、朱塗りの漆器とか、御車山祭の山車が出てくるんですよ。あるいは、昭和30〜40年代を過ごされた方はポストなんていいますよね。丸い赤いポスト、あれこそグッドデザインじゃないかと思いますが、ロングセラーで、記憶にも残ってるし、街角の一つのアイデンティティーになるわけですね。そういうように、記憶が色に結びつくわけですよね。先ほど「マゼンダ」と言われましたが色名なんていうのは学校なり、業界に入ったりして専門的に色を勉強しようしてやるだけのことであって、本来はいろんな環境の中で覚えていくのが赤の色、になるわけですね。それは実は知識なんですよ。感覚感覚と言われてますけれども、色も知識でしかないと。
 私は知識の中には二種類あると思っています。一つは体験的学習による知識と、もう一つは社会的学習による知識。色などデザインにかかわることは、体験的学習で学ばれる要素が非常に大きいんです。社会的学習というのは例えば学校で教科書で学ぶようなものを社会的学習と理解していただいたらいいんですが。ここで、会長に古い記憶をたどっていただいて、生まれて間もない頃から学校に行くまでお子さんにどういうことを教えられました?例えば言葉はちゃんと教えられました?教えないですね。どうやってあやしました?たいがい「ブーブー」とか、「パパでちゅよー」とかって言いませんか?子供はどう思ってるかといいますと、どうも「パパでちゅよー」は「パパのこと」ということやけど、どうもそれはおかしい表現らしいと。他の人の話を聞くとパパ「でちゅ」なんてことを言うのは自分のパパが自分をあやすときだけで、他の人と話すときはそんなことは言わない。そういうことをちゃんと見てるんです。だから自分なりに補正して、ちゃんとした日本語を覚えていくんです。小学校に行くまでに文法とか教えた人いますか?いませんよね。ロクでもないことばっかり教えているんですよ(笑)。だけど子供はえらいんですね、小学校に入って、たいがいみんなしゃべれますよ。そんな前置きがあって文法とはこんなことですよ、五十音はこんなんですよと教えてもらうからわかるわけですね。
 これが英語のこと考えてください。普通は英語6年間やり、大学でもやってても、なかなかしゃべれないと。なんででしょう。それは、要するに社会的学習、教科書だけで文法をやってるけれども、実際に体験してない、だから覚えられない。子供が小学校に行って覚える時とまったく逆のプロセスですね。だから使えない。当たり前なんですね。私は何が言いたいかというと、言葉というのは、生まれてから言葉をだんだん覚えていきます。小学校になって使って、ああ、この子は言葉がちゃんと学習できてるなということを確認できます。言葉と同じように、色とか、匂いとか味とか、そんなものも、言葉と同じように覚えて、キャッチしてるんだということをイメージして欲しいわけです。中学校からだと英語を覚えようとしても覚えられない。だけど、ものすごい吸収力がある幼少の頃は、色とか感覚的なものをどんどん仕入れているんですよ。皆さんも全員同じ能力を吸収したはずなんですよ。だけど使わないから退化して、そうこうしてるうちに私は感性のない人間だと勝手に決めつけてしまっているという状況なんです。だけど、皆さんの中にも回路じゃないけど頭の中のどっかにいろんな感覚が残されているんですね。それは、今からでもまだまだ使えると、使う気になるということがすごく重要なポイントじゃないかなと思うんですね。
 いずれにしても知識というのはそういう感覚的なもの社会的なものと合わさってあるんです。感性というのもいいかえれば知識です。それを何らかの方法で現実化させる技術が必要なんです。表現力といってもいいですが、パソコンが使えるとか、いろいろあるでしょう。グラフィックのデザインができるとかそういったのも技術のうちなんですね。

実行力
 知識と技術があれば、だいたいプランができます。こういうデザイン案どうでしょうかというね。プランニングや、開発案をつくれて企画書も作れます。ところが、日本の多くのデザインというのはここまでなんですよ。プランがかっこいいのできたね、と言ってるけど、それを実行させようとしてないんですよ。それは何かと言うと、実行力。これ、いうまでもないことですね。
 ちょっと余談になりますが、今フランスはものすごい路面電車ブームになってまして、地方都市で最新型のLRTと呼ばれる路面電車が走っています。それでその象徴なのはストラスブールという街にユーロトラムというのがありまして、これは世界中から見学者が来る。ストラスブールではなんと日本語のパンフレットを作りました。現地に詳しい望月さんという方がコーディネートして、日本からも大勢行きます。向こうの市の方が「ついに日本からの視察団が千を超えました」と。正式に市に要請した視察団が千を超えていて、私のようなプライベートに行っているのを入れると、もう二千三千の視察団がストラスブールにLRTと、それを中心にした街づくりを見に行っているわけです。で、日本でLRTを活用した新しい本格的な都市計画が始まったか?ゼロです。それで、もう出入り禁止になりました(笑)。ストラスブール市は日本の視察団に対して、もうおまえら来るな、おまえら来てもあれ出せ、これ出せと。すごいぞと感心して、私達も報告書作りますと言って、それだけで終ってる。それが今の日本の都市のデザインであったり計画であると、そういうことなんです。
 視察に行くのはいいんですよ。自分たちのお土産持って行かないといけないですよ。俺達の街はこんなことやってるけれど、お前達の街はどうだと、お互いに意見交換して、お前らもなかなかやるじゃないかと、言って帰ってくるというのが使節団のやる仕事なんです。そこで覚えたことっていうのは必ず自分のとこになんらか、定着させていかなければいけないんですよ。要するに実行力がゼロなんです。いろんな団体で、どれだけのお金とどれだけの物を使ったか。だけど変わってない。なぜ変わっていかないかというと結局自分たちが実行してないからです。誰かスーパーマンみたいな人が活性化プランを作ってなんかやってくれると、そういうおぼろげな期待を抱いている。それは違いますと、いうことなんですね。

実行力を支えるものはやる気と競争
 実行するというのは大変なパワーがいると思いますが、じゃあ実行力を支えていくのはなんでしょう。夢とかね、いろいろありますけれども、私はね“やる気”しかないと思います。これなんとかせなあかん、と。少し前の日本は経済成長真っ只中で、ちょっとがんばれば、ボーナスが厚いわけですよ。それが一つのやる気になりましたよね。あるいはなんかやると、これは日本初とか、○○で一番でかいネオンとか、冠がついたりするとやっぱりやる気になったりするわけですね。でも今そんなことは期待できない。今、ネオン一個つくって、かなり儲かったとしても、それを喜べるかというと素直に喜べない状況にありますよね。じゃあどこにやる気を求めるのか。今日は経営者の方も多いと思うんですが、社員がどういう事をしたらやる気が出てくるかということです。屋外広告の事業所等に行きますと、やっぱり従業員のモチベーションが一段低いんですね。何故かというと、「自分らはどうせ看板屋さんやし、地方でやってるし、これくらいがええとこなんよ」と、半分あきらめに似たようなことを考えていると。それはもう根本的にだめなんです。そういうところからやらないといけないと思います。
 そういうやる気を作るためにはどうするべきか。一つは自分の事業所というのが、非常にいい仕事をしてるんだという感覚を持っていただくことだと思うんです。要するに、まわりから求められること。企業としてもその従業員にしても、自分は絶対この企業にとって必要なんだ、この企業はこの地域にとって必要なんだという感覚を、まず持つということが必要なのではと思います。
 もう一つは競争。いいものは必ず競争から生まれます。沈滞するところというのは競争がない。ある大手のメーカーさんに行って、同じように社員研修をもう半年くらいやってますが、そこでも最初は私に何らかのヒット商品につながるデザインを提供してくださいと。私はそれはやりますけど、素材の加工法、ディテールとか実際の流通の流れとかもろもろのことを把握してるわけではないと。そんな人間が、ちょっとかっこよく見えるものを作ったって、そんなもの花火に終るだけ。そんなのはやめましょうと。せっかく開発部員が何人もいるのに、なんでその人達を使わないんですかと。その人達が第一線のデザインにかかわることでやる気が出るでしょうと。その人達は24時間会社に属してるんだから、絶対いいものが生まれるはずだと、今教育プログラムをやってるんです。そういうプログラムが皆さんの中にも必要ではないかと思うんですね。  (続く)

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