World Sign バックナンバー 世界のサイン、遂に出版される
VOL.108  鶏鳴教会
鶏鳴教会

 イスラエルの旅では聖書に印されたキリストの生涯のほとんどが事実に基づくものであることを知り認識を新たにした。かの人が歩んだいたるところにその事跡を伝える教会が建てられていた。
 その一つである鶏鳴教会が特に印象深かった。屋根上にその名の由来を示す金色の鶏を掲げる。
 最後の晩餐を摂ったあとイエスに「あなたは今夜、鶏が鳴く前に三度私を知らないというであろう」と言われたペテロは「そんなことは絶対ありません」と応える。しかし、彼は約束を破った。
 バッハのマタイ受難曲ではそのとき号泣するペテロの揺れ動く心境をアリアの旋律で表情豊かに謳いあげる。それは人間の弱さの表れでもあり、私のもっとも心打たれる場面である。その旋律を胸のうちで反芻した。
 教会の建つ場所は当時祭司の屋敷になっていてイエスは処刑の前日ここで鞭打ちの攻めを受ける。教会内部はステンドグラスの光に包まれペテロの哀しみを慰めるように慈愛に満ちていた。元来一介の漁師であったペテロが後に処刑されるとき、師と同じ形で磔になるのを恥じ、逆さ十字を望んだという。

 





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