World Sign バックナンバー 世界のサイン、遂に出版される
VOL.112  心憎い演出
心憎い演出

 エーゲ海といえば青い空と紺碧の海。そこに散らばる島影をイメージしていたのに今回の旅では曇天の空から時として小雨がちらつくさえない日が続く。
 サントリーニ島では最近この島初のすし屋が開店したと聞き、夕食時を待ちきれずに出かけていった。店の前で三人の若者がだべっていた。その中の、横浜のすし屋で一年間修行したという兄さんが「今夜は雨だから休みだよ」と嬉しそうに言うではないか。見れば海を望むテラスにはカウンターと丸テーブルが並ぶが雨を遮るものは何もない。傘をさしても食べたい気分だったが仕方がない。
 翌朝起きてみれば珍しく快晴。早速ホテルの近くを散策した。海を背にしてこの島独特の白一色の建物が段々状に並ぶ。道端の白い屋根上に崩れかけたボートが一艘。状況からして明らかにデコレーションだろう。建物の姿が見えない当家にとっては屋上だけが唯一の見せ場なのだ。
 よく見れば添えられたオールの端にギリシャ文字。この屋の主が表札代わりに刻んだのだろう。さりげなく、しかも周りの情景にぴったりとはまったサイン。それにしても心憎い演出ではなかろうか。

 





2009 Copyright (c) Japan Sign Association