World Sign バックナンバー 世界のサイン、遂に出版される
VOL.172  闇と光 ─ 伝統の重さと美しさ
闇と光 ─ 伝統の重さと美しさ
 ドイツの風物詩のひとつといえばクリスマスマーケットである。クリスマスの4週間前の日曜日から始まるアドベントシーズンに合わせて開催されている。大都市だけでも2500もあると言われるドイツのクリスマスマーケット、その中でも一番有名と言われ、毎年およそ200万人の来場者を誇るニュルンベルクに足を運んだ。ニュルンベルクのクリスマスマーケットはクリストキントレスマルクト(クリスマスの天使の市)と呼ばれ、クリストキント(クリスマスの天使)に扮する人が開幕宣言をしたり、様々なイベントに参加することで有名である。
 中世の街並みが残るとはいえ第二次世界大戦では壊滅的な被害を被り、写真右のフラウエン教会も建物奥の壁とファサードしか残らなかった。大戦後に街と教会は元通りに復元された。壊滅的であったのなら、当時の生活スタイルに合わせた再建という選択肢があるにもかかわらず、ヨーロッパの多くの都市では元通りに復元している。その選択が歴史の重なりをつくり、その土地に脈々と続く伝統をつくり、「本物」が生まれるのだろう。ライトアップされた石造りの重厚な建築物に石畳、歴史の重みが伝わるこの広場に光る、まばゆい電飾の数々。周りにコンビニのように明るい光が一切ないこともあり、ずっしりとした闇にクリスマスマーケットのライティングがキラキラと光る。それは単純に美しい。「本物」の風景には人の心に響き感動させる強さがあり、これだけの人を集めることができるのだ、と人混みの中を歩きながら思った。
 ヨーロッパの冬は夜が長く、どんよりした天気が続くので気分も滅入りがちであるが、この時期は暗くなった時間の外出も美しく、自然と心も浮きたつものである。
田嶋佳子





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