World Sign バックナンバー 世界のサイン、遂に出版される
VOL.192  古代ローマ遺跡のインクルーシブデザイン
古代ローマ遺跡のインクルーシブデザイン
 ドイツで最も古い街の一つと言われているトリーア。ライン川の支流モーゼル川沿いにあり、ルクセンブルクとの国境近くに位置する。約2000年前ここは古代ローマ帝国の植民市で、6万人が住む「第二のローマ」と呼ばれた街である。現在は小都市ながら遺跡が数多く残ることもあり、修学旅行や観光で国内外から多くの人が訪れる街だ。
 写真は皇帝浴場(カイザー・テルメン)跡で、トリーアにある9つの世界遺産のうちの一つである。古代ローマ浴場は当時誰もが利用できる市民の憩いの場であり、都市の重要な公共施設であった。最近では『テルマエ・ロマエ』が流行ったこともあり、ご存知の人も多いかもしれない。
 写真を見ての通り、サインは絵だけで文字による説明がない。トリーアの古代ローマ遺跡に設置されたサインは数種類あり、文字での説明があるものと絵のみのものとの組み合わせで構成されているが、カイザー・テルメンは絵だけのサインが多かった。この絵だけのサイン、実にシンプルで分かりやすい。説明を読む必要がないので、絵と見比べることで遺跡をじっくりと細部まで眺めるのは新しい感覚であった。屋内の施設では遺跡に関する映像も見られるが、ナレーションはなく文字表記も年代と都市や皇帝など固有名詞のみ。それ以外はアニメーションによって説明されている。こういった類のビデオは子供たちはなかなかじっと見ないのだが、ここではほとんどの人たちが座って鑑賞していた。子供にも外国人にも分かりやすい、インクルーシブデザインの好例であろう。
田嶋佳子





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