VOL.34 ヨーロッパの広告塔 (パリ編)

 エッフェル塔の展望台でパリの街の眺望を楽しんだ後、土産物売り場をのぞいた。この塔のミニチュアをおみやげにと思い、店の女の子に値段を聞いたところ、早口のフランス語で返事が返ってきた。二度聞き直して、やっと面倒臭そうに紙に書いてくれた。ほかの国ではどこでも日本人とみると「ヤスイヨ、ヤスイヨ」と片言の日本語でウインクしてくれたのに、この態度はなんという違いか。傲岸不遜は一人シラク大統領だけではなく、この国の国民性のようだ。いささかムッとしたが、この素晴らしい塔と街をつくった国故にプライドの高さも仕方ないかと思い直した。単なる鉄骨の構造物を、あたかもレースの手袋とベールをした貴婦人の如く高貴な芸術作品に造り上げる造形の魔術に私は酔った。
 街の広告塔もさすがはフランスと思わせられるに十分な気品と芸術性にあふれていた。全体のプロポーションが細部のレリーフとあいまって見事だ。今世紀初めにデザインされ、古い街並とともに今日に至っているのだろう。一つの広告塔がパリの街を演出し、この都市に趣を添えるだけではなく、これがなければ街の風景が成り立たない。それほどまでに完成されたストリートファニチャーではなかろうか。
 





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