点滅希

 
 『働き虫』 
    

 先日、昔のネオン屋仲間から手紙が届いた。カセットテープが同封されており『二十年前、もらった曲を思い出し、ピアノで弾いたので聞いてくれ』とあった。お世辞にも上手いとは言えない。
 彼は目を患い、至近しか見えないらしい。よく楽譜が読めたものだと感心した。恐らく必死で暗譜したに違いない。今は隠居の身であるが『急に懐かしくなって』とある。いいご身分だ。新曲があれば送れ、とある。こちらは月末の追込みで必死だと言うのに……。
 今はそれどころではない、と言う代わりに
 「寒い筈 ネオンの現場は 零下二度」
 「ネオン工事 重機が唸る 小雪舞う」
 と、俳句にして返事した。
 その後彼から電話があり、私がまだ現役で頑張っていることを忘れていた、御免と。
 社員には定年があるが、私は終身刑のようなもの。ああ無情と言うべきか、それとも元気な事を喜ぶべきか。働き虫の悲喜こもごも。

(忠)

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